Tokyo Art Report

東京、ときどき近郊でのアート鑑賞レポート

109シネマズプレミアム新宿/東急歌舞伎町タワー 109CINEMAS PREMIUM SHINJUKU/TOKYU KABUKICHO TOWER

映画『戦場のメリークリスマス』を観たことがなかった。あの独特の旋律を放つテーマ曲は、今まで何度となく耳にしてきたけれども。

今年に入り、4K修正版が上映されていることは知っていた。何でも、大島渚監督作品が国立機関に収蔵されるため、これが最後の大規模なロードショーになるという。観に行きたいと思いつつ、実はその頃、とても映画を観る気分ではなかった。

4月に入り、坂本龍一氏の訃報が流れ、私も少し元気を取り戻していた時には、上映が終わっていた。

どうにか劇場で観れるところはないかと探していたところ、検索エンジンに「東急歌舞伎町タワー」開業の記事をオススメされ、タワー内の映画館「109シネマズプレミアム新宿」の音響監修と、館内使用の楽曲制作を坂本龍一氏が担当したこと、そして、4/27まで35㎜フィルム版『戦場のメリークリスマス』が限定上映されることを知った。

もちろん、その場でチケットを予約。

109cinemas.net

音響にとことんこだわったというプレミアムサウンドシアターのシートは2種類。CLASS Aは一般鑑賞料金4,500円。CLASS Sは同じく6,500円。私は、CLASS Aで鑑賞。

ポップコーンと10種類以上から選べるドリンクは、おかわり自由。でも、実際はそんなに食べられない......

鑑賞前後、アート作品に囲まれたラウンジでゆったりと過ごせる。

しかし、今回私を一番惹きつけたものは......

こちらの、夜景を望めるパウダールーム!

あとから知ったが、ラウンジで流れていた楽曲や本編上映前のサウンドは、坂本氏が制作したものだという。あ、他の劇場とは違う、と思った。でも、どんなメロディーだったかは思い出せない。それほど、その場に溶け込んだ音色だった。

www.tokyu-kabukicho-tower.jp

劇団四季『アラジン』SHIKI THEATRE COMPANY "ALADDIN"

2023年のアート始めはミュージカルから。

数ヶ月前、突如上司から、劇団四季『美女と野獣』のプレビューチケットを譲り受けた。

本場ブロードウェイで観たことはあるけれども、劇団四季のは初めて。新バージョンは上海ディズニーリゾートで上演されたものを踏襲したとのこと。色が違うと思った。アメリカとも日本とも。今まで目にしたことのないカラフルな色遣い。

ここでミュージカル熱が再燃。そういえば、久しく鑑賞していなかった。

『美女と野獣』の翌日に、以前から同僚に勧められていた『アラジン』を予約。この1月でしばし休演になるとのことだったので、その前に観れて良かった。

で、なんと言っても、瀧山久志氏のジーニー役が最高。同僚もこれですっかりハマり、昨年は2回観に行ったとか。

アラジン役は厂原時也氏。舞台に出てきた瞬間から勝手に親しみを覚えていたが、2016年に『ライオンキング』を観に行った際のシンバ役だった。シンバにアラジン、嫌いな人は少ないかもしれないけれども、彼が演じてこそなのかもしれない。

今回、お相手のジャスミン役は、旧来のお姫様像ではなく、自分の意思を貫く女性として描かれていた。これは『美女と野獣』のベル役にも感じたこと。

当初は「王女なのに恋愛で結婚しようとしている」と周りから嘲笑されていたのが、「好きな人と結婚しても良い」と法改正が行われるまでに。

……とある国のプリンセスを思い出してしまった。

ジーニーの歌う『美女と野獣』のナンバーや、一瞬だが『ウエスト・サイド物語』のマンボも聴くことができ、ミュージカルファンにとっては嬉しい限り。

カレッタ汐留46階からの夜景。

この上を魔法の絨毯で飛んでみたい。

https://www.shiki.jp/

「訪問者」クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ "Visitors" Christian Hidaka & Takeshi Murata

今回で2回目の訪問となる「銀座メゾンエルメス」のアート・ギャラリー。

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銀座に行ったついでに立ち寄るつもりだったけれども、ギャラリーツアーを開催していると聞いたので、その日に合わせて行くことに。

こちらのギャラリー、前回も感じだけれども、会場の広さや入場者数に対して、スタッフが多すぎる。正直、落ち着かない。

20代の初めごろ、パリのエルメスを訪れた際に、探している商品があったので店員さんに尋ねたところ「知らない。ここは私の担当エリアじゃないから。別の人に聞いて」と鼻であしらわれた(ように感じた)ことがある。まだ社会人になりたてで、日本式の接客がスタンダートだと思っていた私は、初めてのヨーロッパでそのような扱いを受け、少なからぬショックを受けた。

こちらも、本場にならって細かくエリア担当が決まっているのであろうか。エレベーターの受付担当から始まり、昇降担当、会場受付担当と続く。会場内にも数メートルおきにスタッフが配置されており、彼らが歩くたびに、ヒール音が会場内に響く。

そういえば、以前訪れた名古屋のヤマザキ マザック美術館では、暗にヒール音に対する配慮を呼びかけ、スリッパの貸し出しを行っていた。

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一人で静かに鑑賞したい方には、おすすめしないギャラリーだが、今回参加したギャラリーツアーは文句なしに良かった。

作品の解説はもとより、企画段階から携わっている方の話は、本人の思い入れも強いに違いない、言葉の端々からその熱が伝わってくる。こちらの質問に対する的確な回答に、理解も一層深まる。

今回は、日本にルーツを持つ二人の作家の作品。だまし絵のような作品を描くクリスチャン・ヒダカ氏と映像作品や立体作品を制作しているタケシ・ムラタ氏。両者とも、なかなか目にすることのない独特な作品群。

クリスチャン・ヒダカ《シパリウム(バックドロップ)》

作品に興味のある方は、ギャラリーツアー開催日に行くのが、おすすめ。

店舗のウィンドウ・ディスプレイも楽しい。2022年のテーマは「もっと軽やかに」。3ヶ月ごとに作品が入れ替わっている。

ウェブサイトで、2001年竣工時からのアーカイブを眺めているだけでも楽しい。

www.hermes.com

 

丸紅ギャラリー開館記念展Ⅲ ボッティチェリ特別展 美しきシモネッタ La Bella Simonetta

昨年オープンした丸紅ギャラリーにて、開館記念の第三弾へ。

第一弾の様子はこちらから

ikutan.hatenablog.com

今回の展示は、イタリアの巨匠、ボッティチェリの作品1点のみ。丸紅の所蔵作品の中でも、お宝中のお宝にあたる箱入り娘。

2023年は、モデルとなったシモネッタの生誕570周年にあたるらしい。当の本人は、23歳の若さで、肺結核によりこの世を去っているので、こんなに長い期間祝ってもらっているとは、想像もしていなかったにちがいない。

ところで、先日大塚国際美術館で観た、こちらも

《ヴィーナスの誕生》

こちらも

《プリマヴェーラ(春)》

シモネッタがモデルだったというから驚く。

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ポスターはモノトーンだけれども、実際はピンクのドレスを身に着けており、胸元のペンダントや髪飾りにはパールがふんだんに使われている。私は、右袖のレースの質感に目を奪われた。これは、ポスターではとても再現できない。ぜひ実物を。

www.marubeni.com

市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露十二月大歌舞伎八代目市川新之助初舞台 December Program at the Kabukiza Theatre

1年ぶりの歌舞伎鑑賞。

市川海老蔵改め團十郎は、好き嫌いのはっきり分かれる役者だと思う。でも、舞台上では、嫌いな人をもうならせる圧倒的な存在感がある。

『京鹿子娘二人道成寺』では、中村勘九郎と尾上菊之助が白拍子花子を演じた。二人の舞踊は、衣装もろとも華やかでうっとりする。本物の女性よりも艶っぽい所作に、爪の垢を煎じて飲みたいくらい。そこに、大館左馬五郎演じる團十郎が登場することで、舞台が一変する。舞台の最後、ほんの数分間の出演にもかかわらず。

次いで『毛抜』は、勸玄くんこと市川新之助の初舞台。前回彼を観たのは、3年前。『外郎売』の長いセリフを、一度なりともつかえることなく言い切り、劇場内では割れんばかりの拍手が起こった。

今回は、粂寺弾正役。わずか9歳ながら、女性を口説き、あっさり振られてしまう演技なども披露する。所作が少し雑だと感じる場面もあったが、そこは小学生の男の子。これから徐々に完成していくのであろう。最後の見得も決まっていた。

ところで、1年ぶりの歌舞伎座は、色々と仕様が変わっていた。

まず、前回は、禁じられていた大向う(「成田屋!」「中村屋!」などの掛け声)が復活。でも、なんだか以前と違う。今までは、もっと年季が入った声だったけれども、少し若いような。しかも間も悪い。新入り?

と思っていたら、休憩中に「大向うは、劇場関係者に限らせていただきます。それ以外の方はご遠慮ください」とのアナウンスが……

読売新聞によると、大向うは、今回の襲名披露から再開したらしい。アクリルパネルで間仕切りした「大向うエリア」から、劇場指定の関係者がマスクをした状態で実施とのこと。

また、今回、イヤホンガイドを借りるつもりでいたが、今までは各フロアで借りられるようになっていたのに、1階のみの貸し出しに変更されていた。感染防止策だと思うが、保証金制度もなくなっていた。以前は、イヤホンガイドを借りる際に、使用料と保証金1,000円を払い、返却時に、保証金を返してもらうシステムだった。毎回、イヤホンガイドの返却場所には、1,000円札の束を持った劇場スタッフが数名待機しており、返却と同時にお札を渡す姿が、風物詩のようでもあった。今日日、持って帰ってしまう人なんて本当にいるの?と思っていたけれども、この姿が見れなくなるのは、少しさみしい。

ところで、歌舞伎座では、教科書に載っているような日本画家の作品も楽しめる。これは、ほんの一部。

伊東深水《春宵》

東山魁夷《秋映》

小林古径《犬(庭の一隅)》

訪れたのは千穐楽。小学生くらいの子どもや外国人の姿も見かけた。昨年よりは観客も戻ってきているのかな。ぜひ、幕見席も復活させてほしい。

www.kabuki-bito.jp

『CONTACT ART 原田マハの名画鑑賞術』

転校の多かった私が、新しい土地に行くとまずすること。それは、近所の公共図書館がどこにあるか探すことだった。本は、まだ友だちのいない私にとって、格好の遊び相手だった。その後、友だちができても、図書館には通い続けた。大人になった今でも、その習慣は変わらない。

数年前から、この時期になると参加している「ブックサンタ」。様々な事情で、困難な状況にいる子どもたちに、書店で本を購入し、チャリティサンタに届けてもらうプロジェクトだ。

booksanta.charity-santa.com

一番最初の年に選んだ本は、中川李枝子氏と先日亡くなった大村(山脇)百合子氏の姉妹作『いやいやえん』。

www.fukuinkan.co.jp

今でも大好きな本だが、名作すぎて読んだことのある子も多かったかもしれない。

今年は、そこまで有名でないものを、と思っていたところ、書店で目に飛び込んできたのが、こちら。

www.gentosha.co.jp

『楽園のカンヴァス』など、アート小説の大家としても知られる原田マハ氏の最新作。もとは、WOWOW制作のアート番組を書籍化したものらしい。

帯に書かれていた「日本は世界的に見ても美術館大国。私たちはいつでも素晴らしい作品に出会えます」という文章に、そうそうそうそう!と即決。一瞬、子どもたちには、少し難しいのでは……とも思ったが、ブックサンタの対象は、0歳から高校生。中高生に届けば一番良いが、もし、難しくて読めなかったとしても、読めるようになったときに楽しめば良い。名画は、そう簡単には色褪せないのだから。

この本が、何かのキッカケになってくれると嬉しい。

東京国立博物館創立150年記念 特別展 国宝 東京国立博物館のすべて 150TH ANNIVERSARY SPECIAL EXHIBITION TOKYO NATIONAL MUSEUM:ITS HISTORY AND NATIONAL TREASURES

東京国立博物館が誇る、いや、日本が誇る「国宝展」に行ってきた。これ、すごいです。会期は12月11日まで。もしかしたら、もうチケットは予約できないかもしれない。

追記:12月18日まで会期延長が決まったらしい!本展のみ午前9時30分から午後8 時まで開館。

特に印象に残った国宝は5点。

狩野永徳筆の《檜図屏風》

巨木の存在感にのみ込まれそうになる。

www.tnm.jp

《孔雀明王像》

明王が手にしているのはザクロ。ザクロといえば、美容効果が高いと言われているけれども、明王が持つと、より神秘的で、若返りさえも可能な魔法の果実のように感じる。

www.tnm.jp

李迪筆の《紅白芙蓉図》

2枚の絵の左側には白い芙蓉、右側には酔芙蓉(すいふよう)と呼ばれる紅い芙蓉が描かれている。実は2枚は同じ花。1日で花の色が変わってしまうらしい。お酒に酔っているようにみえることから、酔芙蓉と名付けられたとか。「われもまたあかい」を意味する、吾亦紅(われもこう)に通じるようなネーミング。

www.tnm.jp

《竜首水瓶》

すっと伸びた竜の首から上の蓋部分と、銅に描かれたペガサスが猛々しい。展示室では、ライトの当たり方も絶妙で、背後の壁に映った影さえも勇ましい。

www.tnm.jp

《舟橋蒔絵硯箱》

こんな丸みを帯びた硯箱は初めて。常識からの脱却か。

www.tnm.jp

展覧会は2部構成になっており、第1部で国宝89点を公開。今回も、出社した日の夜間開館日に行ったが、数からして余裕で鑑賞できると思っていた。しかし、絵画や宝物以外に、書跡や刀剣もものすごい存在感。とてもサラリと流すことはできない。続く、第2部の「東京国立博物館の150年」。こちらも教科書等で目にしたことのある、国宝予備軍の数々。時間が足りない。これから鑑賞予定の方は、最低2時間くらいの余裕を持って臨んだほうが良い。

数少ない撮影可能作品は、菱川師宣筆の《見返り美人図》。正面は撮影待ちがズラリ。時間もないので、斜め横からパチリ。あまりにも有名な作品だけれども、今現在は、国宝でも重要文化財でもないらしい。

訪れたのは、皆既月食の数日あと。美しい。

tohaku150th.jp