Tokyo Art Report

東京、ときどき近郊でのアート鑑賞レポート

ガブリエル・シャネル展 Gabrielle Chanel Manifeste de mode

水曜日は、月に一度夕方からの入館料がお得になる「マジックアワーチケット」を購入して、三菱一号館美術館へ。現在開催されているのは、心待ちにしていた「ガブリエル・シャネル展」。

当初、展覧会名がシャネルの愛称である「ココ・シャネル」ではなく、本名の「ガブリエル・シャネル」となっていたので、彼女の生涯を追った展覧会なのかと思っていた。しかし、実際は彼女が生み出した作品に焦点を当てた展覧会であった。

思えば、シャネルの生涯はこれまでも幾度となく本や映画になってきた。彼女が孤児院で育ったこと、最初は帽子のデザイナーをしていたこと、パブロ・ピカソやジャン・コクトーと交友関係にあったこと、などなど、多少なりとも彼女に興味のある人には知られていることなのではないかと思う。故に、これほどまでに作品に絞り込んだ展覧会が実現可能になったのではないか、と。

とにかく素晴らしかった。

まずは、シャネルが世に広めたと言われているリトル・ブラック・ドレス。

通称LBDは、1920年代の発表から100年経った現代においても、ファッションアイテムの定番として君臨している。それまで、黒は使用人が着るもの、喪服として着るものとされていたものなのに。

ところで、シャネルのLBDもイヴニング・ドレスも、一見シンプルなのに、よく見るとものすごく手が込んでいる。例えば、ウエスト部分のデザインが細かいプリーツになっていたり、裾に繊細なレースが使われていたり。その上、そのレースの長さが場所によって違っていたり。

これは、ナチュラルメイクと言われているものが、実際には丁寧に時間をかけて作り込まれたナチュラル「風」メイクと同じようなことなのかもしれない。究極のシンプルとは、そういうことなのか...

また、ジャンヌ・モローやジャクリーン・ケネディにも愛されたスーツ。

「私のスーツは活発な女性に向けてデザインされています」とのシャネルの言葉通り、素材にしろ、デザインにしろ、機能性重視。フォルムもそこまで女性性を押し出しているわけでない。それなのに...ものすごくフェミニン。

そして、貴金属を使わず装飾性を重視して作られるコスチュームジュエリー。

こちらは、一転してかなりデコラティブだ。シャネル自身「宝石は嫉妬心をかきたてるものではなく、せいぜい驚かせるためのもの。ただの飾りや楽しむためのものであるべきよ」と語っている通り、一度身につけたら人々の記憶に永久に残るのではないかと思うくらいのインパクトがある。

そういえば、以前訪れた「アクセサリーミュージアム」でも、シャネルのコスチュームジュエリーが展示されていた。ご興味のある方はこちらもどうぞ。

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それにしても、自らがデザインしたドレスやコスチュームジュエリーを身に纏うシャネルのなんと格好良いことか!デザイナー自身が一番似合っているのでは!と思わせるほど。私はそんな1枚を会社のデスクに飾っている。

写真上方「マン・レイと女性たち」に展示されていた《ココ・シャネル》

作品展示はまだまだ続く。「シャネル№5」の香水に、ベージュと黒のバイカラー・シューズ、チェーンバッグ「マトラッセ」の原型になった「2.55」バッグに至るまで。

ともすれば、余りにも大きすぎる「シャネル」というブランド名。ひとり歩きしているように感じることもあったが、この空間にいるからなのか、今まで作品そのものをじっくり眺めたことがなかったからなのか、一つ一つの作品が、まるで簡単には触れられない芸術作品のように感じられた。

そう、今回の会場は三菱一号館美術館であったが、会場内は黒一色で統一され、あの特徴的な暖炉も壁も覆い隠され、まるでシャネルという宇宙空間に連れてこられたようだった。

鑑賞後は、お楽しみのミュージアムショップで、一人2枚までとなっていたクリアファイルを購入。

今回は、シャネル展なだけに、全身シャネルを身に着けたシャネラーが数多くいるのでは、と予想していたけれども、そんな方はおらず、でも圧倒的に女性が多かった。男性は数名。服飾関係の学校に通っていると思しき学生さんや仕事柄来たと思われるサラリーマン、そして、奥さんに連れてこられたようなお父さんなど。

私自身はシャネルをイメージし、服装は黒と白のモノトーンコーデで臨んだ。以前、誰かがどこかで、美術鑑賞の際には、他の鑑賞者の目の妨げにならない色合いの服装にするよう心がけていると書いていて、感心したことがある。私はそんなことを考えたこともなかった…でも今回は、結果的に会場と同化していて良かったかもしれない。

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