Tokyo Art Report

東京、ときどき近郊でのアート鑑賞レポート

第25回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞) The 25th Exhibition of the Taro Okamoto Award for Contemporary Art

ロシアによるウクライナ侵攻が止まらない。

この一週間、書きかけだったブログを完成させる気にもならず、ましてや新たにアート鑑賞に行く気にもなれず、鬱々とした日々を過ごしていた。

でも、ふと、こんな時だからこそ、戦争を体験したアーティストの作品を観たい、そして願わくば、少しでもエネルギーをもらいたい、と急遽「川崎市岡本太郎美術館」に行くことに。

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『母の塔』

現在、常設展では「岡本太郎と夜-透明な混沌」、企画展では「第25回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」を開催中。

岡本太郎は、私の好きなアーティストの一人でもあるので、こちらの美術館にも過去に何回か訪れているけれども、今回常設展で初めて目にした《星・花・人》。か、かわいい...どことなくヴィトンのモノグラムを彷彿させるような。

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そして、やはり...

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岡本太郎は、1942年、31歳のときに召集を受け、二等兵として中国に出征。1946年に復員するが、空襲により作品はすべて焼失してしまっていたらしい。

ということは、私たちが知っている作品は、戦後に制作されたものだったのか。もし彼がまだ存命だったら、今回の戦争について、どう思うだろうか。

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さて、企画展では、今年で25回目を迎える「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)」の入選作品を展示。25回目ともなると、毎年恒例のという感じだが、恐らく私が観るのは2回目くらい。今回は578点の応募の中から24名(組)の作品が入選。この賞は、岡本太郎の精神を継承し「自由な視点と発想で、現代社会に鋭いメッセージを突きつける作家を顕彰するべく設立された」とのことだが、まさにそれに相応しい作品ばかり。

その中でも私が印象に残ったのは、村上力氏の《異形の森》。

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まず、遠くから巨大なピカソが目に入る。圧倒されて近づいて行くと、手前にも何体かの人物像が。こちらは等身大。また、近寄るとわかるのだが、素材は麻布。私は、普段そこまで人物像に興味をそそられないのだが、自然素材である麻の持つやわらかさのせいなのか、元々麻好きというのも関係しているのか、何だか気になって仕方がない。会場を何周かして、再び作品の前に戻ってきたとき、運良く作者の村上氏とお話することができた。

こちらは、彫刻家ジャコメッティの《森》にヒントを得て制作したとのこと。ジャコメッティといえば、針金のように細長い人物像が思い浮かぶが、そこからこんなイメージを膨らませられるとは。作者の世界観が面白い。

また、なぜピカソを選んだのかとの問いに、白い壁を生かせるのは、ピカソのトレードマークであるボーダーシャツだと思いついたから、とのこと。確かに、ボーダーシャツを着せると、よりピカソであると認識しやすい。なお、こちらのボーダー柄は、色を塗っているのでなく、布を押しピンのようなもので留めているだけ。ちなみに、人物像は主に知り合いとのことで、中央の男性が作者本人、その前の女の子は作者のお嬢さん。

そして、私が一番関心のあった麻布。実は麻布の上から漆を塗っているとのこと。この手法、なんと、あの興福寺の阿修羅像と同じらしい。阿修羅像は、私も奈良に行ったときに観た記憶があるが、木製だとばかり思っていた。ということは、こちらの作品も時が経てば、阿修羅像のような輝きを放つようになるのだろうか。

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撮影にも快く応じてくれた作者の村上力氏

さて、もう一つ印象に残った作品が、岡田杏里氏の《FLor y Canto 花と歌》。

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何だかポップで明るい気分になるな、と思って眺めていたけれども、家に帰り、なぜこの作品に心惹かれたのかと考えていて、はたと気が付いた。この色合い、空の青と麦畑の黄色、ウクライナの国旗を思い出していたんだ。作者は意図していなかったと思うけれども...

最後に、何度でも言うし、何度でも書く。

断固として戦争反対!

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《ノン(Non)》

www.taromuseum.jp